今年も残すところ2ヶ月と少しになりましたね!皆様いかがお過ごしでしょうか。10月後半のプロジェクトはルネ・ヤコブス指揮によるテレマンのオペラ「Orpheus 」(オルフォイス〜オルフェオのドイツ語表記)。舞台演出、声楽、器楽が一丸となって作り上げるオペラはソロ活動とはまた違うワクワク感を与えてくれます。テレマンチャレンジで彼の世界にすっかり魅了された2021年ですが、このプロジェクトでさらにテレマンという作曲家の魅力を再確認しています。
ギリシャ神話「オルフェオとエウリディーチェ」は、そのピュアかつ劇的なあらすじで音楽家や画家のインスピレーションとなっています。ああ、愛する二人の悲劇…ともすると感傷的になりがちなこのストーリーを、テレマンはいともかんたんにコミカルな悲劇に変えてしまいます。テレマンが加えたスパイスは「オラシア」というブッ飛んだ超悪役。オルフェオに恋い焦がれるオラシアはエウリディーチェが憎くてたまりません。エウリディーチェが死んじゃったんだから、オルフェオはもう自分に振り向いてくれるだろうと再アプローチするのですが、オルフェオは「は?何言ってるの?ああ〜僕のエウリディーチェ、僕の最愛の人…」と上の空。自分に見向きもしないオルフェオにぶっちーーんとキレて「もういいわよ!愛してなんかいない!リベンジよ!!」そこで歌う超絶技巧のアリアがもう狂気そのもの。ロックンロールも真っ青です。そしてバッカスの神にオルフェオを殺してもらうように頼むのですが、そこで我に返り「???もし、オルフェオが死んだら黄泉の国に行くということは…またそこでエウリディーチェと再開するってことじゃない!そしてまた二人はラブラブ…私なんてことしちゃったの!」そしてオラシアは自害してしまうのですが、最後にテレマンがオラシアに歌わせるしっとりとしたアリアは、何とルイ13世の時代にフランスで歌われていた「エール・ド・クール〜宮廷の愛の歌」で書かれたスタイル。悪役であるはずのオラシアに高貴な人のための歌を最後に歌わせるとは、テレマン本当に心憎いです。
儚くも美しいオルフェオとエウリディーチェの話はいつしか背景に、オラシアの憧れ、嫉妬、希望、狂気、後悔、絶望…そういった人間ならではの当たり前の感情をスタイリッシュに表現したテレマン。なぜか悪役であるはずのオラシアに感情移入してしまうのも、テレマンのマジックでしょう。副題に「愛の恒常性(愛とはこうしたもの)」と付け加えられているのも納得がいきます。ベルギー、オランダ、ドイツ、フランス、スペインとツアーの続くこのプロジェクト。たくさんの観客と、20世紀に再発見されたこのオペラをシェア出来ることが今から楽しみです。
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